消女ラプラス
衝撃を受ける僕の前で、アリアはあの時とほとんど変わらぬ瞳を向ける。
僕がラプラスと勘違いしていた少女は、実の姉であるアリアだったのだ。
しかしそれは、僕自身の根幹を揺るがす事実でもある。
「あり得ない……どういうことですか⁉ 僕はこの国に生まれて、ごく普通に育った何の取柄もないただの人間だ! それとその『とある計画』に何の関係が……!」
「ごめんなさい。それは今は言えないわ」
僕の難詰に、アリアはきっぱりと断言した。
「確かなことは、私はラプを助ける為に貴方を利用しようとした。本当にごめんなさい……でもその時の私はラプを助けることしか頭になかったの。結局、貴方に会うことが出来たのは私が死んだ後になってしまったけれど」
そしてアリアは僕に近づき、そっと頬に手を添えてきた。
「でも今、記憶の中だけでも貴方に会うことが出来て良かった。ありがとう、私のラプを守ってくれて」
スッ、と彼女の手の感触が薄くなった。
気付くと、アリアの体が少しずつ透け始めている。
「そろそろ……時間みたいね」
「ま、待ってよ! 貴方にはまだ聞きたいことがたくさんあるんだ! 僕は一体何者なの⁉ 僕はこの先どうしたらいいの⁉ ねえ、答えてよ!」
陽炎の様に薄れていく中、アリアの唇が静かに言葉を紡ぐ。
「貴方が何者なのか、それはラプと一緒にいれば分かる。だからどうか、これからも彼女を守ってあげて。私はいつも……貴方たちを見守っているから――」
そして最後、アリアはラプラスに視線を移して慈愛に満ちた微笑みを浮かべ――そのまま打ち寄せる波音と共に消えた。
同時に海が荒れ始め、巨大な波が押し寄せてきて僕とラプラスを再び包み込む。
「ラプラス!」
水の中で必死に彼女を抱きしめると、海の底に黒い空間と光る点が見えた。
海の中に沈んでいくに連れて辺りの景色が変わり、段々とそれが宇宙空間であることに気付く。
その小宇宙には無数の赤い糸が伸びていて、所々で歯車が回りながらゆっくりと漂っている。
その歯車たちはやがて星が出来る様に引かれあって集まり、お互いに回転し合ってより巨大な歯車を形成していく。
「これが……ラプラスの頭の中……」
僕はしばらく呆気に取られて辺りを眺めていた。
やがて数メートル先に扉が浮いていて、そのドアノブと自分の手が赤い糸で繋がっていることに気付く。
そろそろ行かなくては。……例えあの扉の向こうに、どんなに過酷な現実が待っていたとしても。
僕は直感のままに赤い糸を掴むと、ラプラスを抱えた状態でそれを引っ張る。
糸に導かれるままドアの前まで進んでドアノブを回すと、眩しい白い光が溢れ出す。
最後に僕は、不思議な小宇宙を振り返ると――アリアに別れを告げてから扉向こうへ消えた。
僕がラプラスと勘違いしていた少女は、実の姉であるアリアだったのだ。
しかしそれは、僕自身の根幹を揺るがす事実でもある。
「あり得ない……どういうことですか⁉ 僕はこの国に生まれて、ごく普通に育った何の取柄もないただの人間だ! それとその『とある計画』に何の関係が……!」
「ごめんなさい。それは今は言えないわ」
僕の難詰に、アリアはきっぱりと断言した。
「確かなことは、私はラプを助ける為に貴方を利用しようとした。本当にごめんなさい……でもその時の私はラプを助けることしか頭になかったの。結局、貴方に会うことが出来たのは私が死んだ後になってしまったけれど」
そしてアリアは僕に近づき、そっと頬に手を添えてきた。
「でも今、記憶の中だけでも貴方に会うことが出来て良かった。ありがとう、私のラプを守ってくれて」
スッ、と彼女の手の感触が薄くなった。
気付くと、アリアの体が少しずつ透け始めている。
「そろそろ……時間みたいね」
「ま、待ってよ! 貴方にはまだ聞きたいことがたくさんあるんだ! 僕は一体何者なの⁉ 僕はこの先どうしたらいいの⁉ ねえ、答えてよ!」
陽炎の様に薄れていく中、アリアの唇が静かに言葉を紡ぐ。
「貴方が何者なのか、それはラプと一緒にいれば分かる。だからどうか、これからも彼女を守ってあげて。私はいつも……貴方たちを見守っているから――」
そして最後、アリアはラプラスに視線を移して慈愛に満ちた微笑みを浮かべ――そのまま打ち寄せる波音と共に消えた。
同時に海が荒れ始め、巨大な波が押し寄せてきて僕とラプラスを再び包み込む。
「ラプラス!」
水の中で必死に彼女を抱きしめると、海の底に黒い空間と光る点が見えた。
海の中に沈んでいくに連れて辺りの景色が変わり、段々とそれが宇宙空間であることに気付く。
その小宇宙には無数の赤い糸が伸びていて、所々で歯車が回りながらゆっくりと漂っている。
その歯車たちはやがて星が出来る様に引かれあって集まり、お互いに回転し合ってより巨大な歯車を形成していく。
「これが……ラプラスの頭の中……」
僕はしばらく呆気に取られて辺りを眺めていた。
やがて数メートル先に扉が浮いていて、そのドアノブと自分の手が赤い糸で繋がっていることに気付く。
そろそろ行かなくては。……例えあの扉の向こうに、どんなに過酷な現実が待っていたとしても。
僕は直感のままに赤い糸を掴むと、ラプラスを抱えた状態でそれを引っ張る。
糸に導かれるままドアの前まで進んでドアノブを回すと、眩しい白い光が溢れ出す。
最後に僕は、不思議な小宇宙を振り返ると――アリアに別れを告げてから扉向こうへ消えた。