消女ラプラス
その時。聞き覚えのある声と共に、僕を掴んでいた男の手が離れた。

振り返ると戦闘員は倒れていて――その隣で、手刀を構えた紫色の髪をした男がシニカルな笑みを僕に向けた。

「君たちとの約束を守る為に、今だけ俺は悪魔になるよ」

「き、貴様! 何のつもりだ!」



ラプラスを拘束していた戦闘員が叫ぶも、五月雨は目にも止まらぬ速さで彼の後ろに回り込み手刀を叩き込んだ。

ヘルメット越しにも関わらず呆気なく戦闘員は倒れ、解放されたラプラスが僕に抱き着く。

「その様子だとすっかり順調みたいだね。所詮、僕の役回りはアダムとイブを脅かす蛇に過ぎなかった、ってことかな」



憎まれ口を叩く五月雨に、ラプラスを受け止めながら僕は問いかける。

「五月雨、どういうつもりだ……? 傷はもう治ったの?」



すると、五月雨はジャケットとシャツをはだけさせ……そこあったはずのプラズマブレードの穴は完全に塞がっていた。

「流石に数分間は動けなかったけどあの程度じゃ俺は壊せないよ。例え心臓を貫いてもね……そもそも俺に心臓なんてないけど」

「からかってるのか? さっきからの何の話をして――」



その時、隣でラプラスが息を呑んで告げた。

「終……そういうこと、だったのね……!」

「ラプ。四年間も一緒に過ごしたのに気づかないなんて、俺は凄く寂しかったんだよ?」



五月雨はわざとらしく嘆息して僕らに衝撃の事実を告げた。

「そう――俺はアンドロイドだ。だから頭部を破壊されない限り死ぬことはない」

「そ、そんな話信じられないよ……! だって見た目はどう見ても……!」



だけどその時、僕は思い当たる節があることに気付く。

そうだ、工場で戦った時にメイが行った熱源反応探知……!

あの時五月雨が感知出来なかったのは、他の熱源に隠れていたからじゃない。アンドロイドだからそもそも体温が存在しないんだ!

「始君、いついかなる状況でも常識を疑え。そうしなければこの先生き残ることは出来ないよ」



そう言って五月雨は僕たちに背を向け、戦闘員たちに向かい合った。

「さっきだって、君はもう少し警戒するべきだった。もし俺が指示していたら、君はこいつらに殺されていたかもしれないのだよ」

「それはないよ。だって『天使』は『天使』にしか殺せない――」

「僕がいつ、そんなことを言ったかな?」



五月雨が首を傾けて問いかける。



「え……?」
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