アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
もう彼から連絡が来なくなって、もう少しで1ヶ月が経つ。
いつまでもクヨクヨしていられない。
早く周を忘れてしまえばいい。
そう心に言い聞かせて、吹雪は仕事に戻ったらのだった。
けれど、家に帰れば、吹雪は彼からもらった蒼いマグカップを眺めて、ボーッとしてしまうのだ。
同じ趣味を見つけてから、周とは更に距離が縮まっていたように吹雪は感じていた。このマグカップを買ってくれた時の店には2人でよく訪れていた。2人で甘いものをシェアして食べたり、食器を眺めたりして、穏やかな時間を過ごしたこともあった。「俺たちの趣味、何だなおじいちゃんとおばあちゃんみたいだね」なんて、笑ったりもしたな。
そんな風に思い出しては微笑んでしまう。
けれども、笑顔になった後に思い出すのは、柴田の言葉だった。
周は柴田との約束のために吹雪をあのギャラリーに連れていったのだ。もし、彼と付き合っていたのならば、きっと本当に柴田に紹介するためだけに吹雪に近づいたのかもしれない。そして、吹雪の両親が地位のある人だと彼も知っていたのだ。だからこそ、吹雪を恋人役に選んだのだろうと、吹雪は思っていた。
ホストの練習相手ではなく、偽の恋人だったのだ。