アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
しばらく濡れた道を歩くと、住宅街に入っていく。その道路沿いに周からもらった店の名刺に書かれたカフェの看板が見えてきた。
吹雪はその店に入ろうとした時だった。その店の隣に飾られているものに目が入った。
「蒼の食器…………『雨音』………?」
そこには、小さなギャラリーがあり、入り口には蒼い食器が写ったポスターが飾ってあった。そして、そこにはタイトルらしき『雨音』と文字が書かれていた。
吹雪はその食器がどうしても気になってしまい、ギャラリーに歩みを向けた。先日周に招待された柴田のギャラリーよりかなり小規模で、作品の数は少ない。けれど、一つ一つにどんな作品なのか、説明や食器の名前などが書かれていた。蒼い食器だからか、全てに雨や水の名前がつけられていた。
照明により更にキラキラと光る陶器に、吹雪はうっとりとした視線を向けながら、ギャラリーをゆっくりと歩き回る。
そのうちに、吹雪はある事に気づいた。
「私が持っているものと…………ここにある作品に似てる………?」
吹雪がハッとして独り呟いていた。静かなギャラリーにその声が響いた。
「そうだよ。吹雪さんが買ってくれたものと同じだよ」
「周くん」