アラサー女子は甘い言葉に騙されたい




 「俺はずっとギャラリーを、開きたかった。吹雪さんを招待するためにね。でも、俺は学生で、独り暮らししてて、学費も払ってたから、毎日カツカツの生活だったんだ。だから、ギャラリーを借りる事も、準備する事も出来なかった。でも、吹雪さんには立派で豪華なギャラリーに来て欲しいなって、ずっと思ってた。だから、ホストで稼ごうかなって考えたんだ」
 「えっ……ちょっと待って。ずっとって………周くんはホストの店の前で出会った時より前に私を知っていたの?」


 周の話しには、気になるところが沢山あった。けれど、1番驚いたのはその部分だった。吹雪は周と出会ったのは、あの時が初めてだと思っていたのだ。吹雪が驚いていると、周は「知っていたよ。少し前からね」と、恥ずかしそうに苦笑していた。


 「覚えてなくても仕方がないと思う。初めて吹雪さんに会った時は、俺の全ては陶芸で、他はどうでもいいと思っていたんだ。髪もボサボサで、服だっていつも白のTシャツにデニムのパンツ、そして汚れたスニーカ。そして、大きな眼鏡もしていたんだ。土ばっかりいじっているから、手も服も汚かったしね。大学ではダサい土人形とか呼ばれてたよ」


 周はそう言って恥ずかしそうに頭をかきながら、吹雪を見た。その視線はとても優しく、吹雪はドキドキしてしまう。


 「そんな時に出会ったのが、吹雪さんだよ?」
 「私、いつ出会っていたの………周くんと………」
 「少し恥ずかしいけど………話すね」


 そう言って、目尻に溜まっていた涙を彼が拭ってくれ、そして周はそのままソファの上に置かれていた吹雪の手を握りながら、昔の出会いの話しを始めた。






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