アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「数年前、俺が大学生3年ぐらいの時かな。教授の工房で、陶芸の体験教室があったんだ。俺は教授に「弟子だから手伝え」って言われて、その日は助手をすることになったんだ。陶芸教室って、年配の人とか若くても友達同士とか、親子が多かったんだけど。その日は、若い女の人が1人で来ていたんだ」
「あ………それ………」
「そう。吹雪さんだよ。体験教室が始まると、キラキラした瞳で教授の話しを聞いていたんだ。いざ、陶芸が始まると、その人はすごく楽しそうで……そして、真剣にお皿を作っていだ。けれど、なかなかうまく形が作れなくて困ってるみたいだから、俺が声を掛けたんだ」
懐かしそうに話してくれる周。
吹雪もその日の事は覚えていた。時々食器をみにお店で、体験教室があると知り吹雪は、どうしても参加したくなったのだ。いつもならば、こういう場所に率先して行くタイプではなかったけれど、いつも惚れ惚れするぐらいに美しい食器を作ってくれる人がどうやって作っているのか知りたかったのだ。なので、勇気をだして申し込んだのだ。
当日はとても楽しい時間だったのを吹雪は今でも覚えていた。教授も助っ人の男性も覚えているけれど、顔まではしっかり記憶には残っていなかった。
その時の男性が周だとは思いもよらなかった。
「ごめんなさい………私、気づかなくて」
「いいんだよ。俺の容姿が違いすぎたんだから。俺が吹雪さんの手直しをして、どうやったら上手く行くのかを伝えたんだ。その時、吹雪さんの手に触れてしまって、俺が謝ったら、吹雪さんは優しく微笑んでこう言ったんだ」
周は吹雪を見つめ、そして昔の吹雪の姿を重ねて見ているのか遠くに視線を向けているように見えた。