アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
タクシーに乗っている間、2人は手を繋いだまま無言だった。きっと、運転手は付き合い始めたばかりの恋人なんだろうと思ったかもしれない。吹雪は、その無言の空間は「何かしゃべろうか?」と不安になるものではなく、心地がいい間だった。繋いだ手からは、彼の気持ちが伝わってくるような気さえした。
タクシーが止まった場所には、少し古びた5階立てのアパートが建っていた。そこの2階の1番端の部屋が彼の部屋だった。
「少し散らかってるけど………どうぞ」
「お邪魔します…………」
ドアを開けて、部屋の中へ促してくれる。
吹雪は緊張しながら彼より先に部屋に入る。靴を脱いで、ストッキングのままフローリングのひんやりとした床に足をつける。
バタンッと、ドアが閉まった瞬間。周に後ろから抱きしめられてしまう。「あ……」という声は、彼の唇が首筋に触れたために出た言葉だった。
「吹雪さんが俺の恋人になったなんて………信じられないんだ。こうやって抱きしめているのに、夢みたいな感覚だ」
「…………大丈夫だよ。私は、周くんが好き。だから、恋人になったの」
「確かめさせてよ………もっともっと吹雪さんを感じさせて」