アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
1話「嘘の顔」
1話「嘘の顔」
「ふぅー…………」
タワービルの高層部にあるおしゃれなレストラン。そこには着飾った若い女性や、スーツ姿の男性が多くおり、皆上品に微笑み、綺麗な仕草で料理を楽しんでいた。
吹雪は慣れない雰囲気に、明日見吹雪(あすみふぶき)は大きく溜め息をついた。自分のクローゼットの中で1番高級なドレスを着て、化粧も気合いを入れてきた。髪型は少し前に美容院に行って、ふるいパーマをかけてもらったばかりなので、艶があって自分では気に入っていた。それなのに、こんな場所に居ると妙に自信がなくなってしまう。
ここは高級レストランで、普段の吹雪ならば滅多に足を運ばない場所だった。
けれど今日は誘われてこの場所に連れてきて貰ったのだ。
「すみません……お待たせしました」
「あ、いえ………お仕事、大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。簡単なトラブルだったので、直し方を伝えたら通常に戻ったみたいなんで」
「よかったですね」
スマホ片手に申し訳なさそうな表情で戻ってきたのは、林光弥(はやしみつや)という、少し年上のメガネがよく似合う男性だった。ダークグレーの細身のスーツを着こなした、紳士的な男性。話し上手であるし、清潔感もある。女性に人気がありそうだな、吹雪は思った。
「司書さんなんですよね?やっぱり本が好きなの?」
「えぇ、昔からよく読んでいました」
「そうなんだ。俺はビジネス書しか読まないから今度何かおすすめがあったら教えてよ」
「そうですね……私はミステリが好きなので………」