アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
5話「話せない秘密」





   5話「話せない秘密」




 いつもは気さくに話しかけてくれるのに、いざホストのように女性を喜ばせようとすると言葉が出なくなる周。
 周は不思議な男だった。

 2回目に会った時も「君の笑顔は花のように可憐で美しい」と言われ、吹雪は笑いそうになってしまった。けれど、周はいろいろと言葉を考えているようで、吹雪は前回のように笑ってしまうのは失礼だと感じ、笑みを必死に我慢したのだ。


 「んー………どうしてダメなんだろう?こういうの女の子は好きだと思ったんだけど……」
 「それは何で見たの?」
 「ネットとか」


 確かにそういう登場人物がいる物語もあるだろう。だが、今では珍しいなと思ってしまう。最近の女向けの漫画でも見ないような気がする。
 そう考えて、ハッとした。


 「………そうだ!少女漫画!」
 「え………」
 「女の子に人気の漫画見てみるのもいいんじゃないかな。私も人気作ぐらいは知ってるよ」


 女の子がきゅんっとする男の子の行動や言葉。それを学ぶにはうってつけの教材になるだろう。


 「読んでいてドキドキしたり、感動したり、こんな事されてみたいなーとか思えるから。いい勉強になるかも」


 名案が思いついたと張り切った調子でそう言い、周に意気揚々とした様子で彼の方を向く。
 すると、彼はボーッとした様子で吹雪を見つめていた。


 「周くん?どうしたの…………?」
 「あっ!ご、ごめん……ついボーッとしちゃって」
 「え………」
 「いつも緊張してるみたいだったから。そんな素っぽい笑顔見れたの初めてだったから。そんな笑顔も出来るんだなって」
 「………ご、ごめんなさい。いい案だと思ってしまって」
 「その表情いいね。もっと見たいって思う」
 「っっ!」


 また、不意打ちでドキッとした事を言われてしまい、吹雪は顔がにやけてしまいそうで、咄嗟に顔を背けた。
 すると、後ろから「あ、ごめん!少女漫画で勉強するの、すっごいいいと思うよ?!」と、吹雪が怒ってしまったのだと思っているようだった。
 そんな鈍感な彼に今だけは感謝しつつ、吹雪は顔の赤みがひいてくるまで、彼に顔を見せることが出来なかった。






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