アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
周の言葉が胸に染み込んでくる。
ゆっくりと語りかける優しい声。「間違ってないよ」と言ってくれる彼の気持ちが、吹雪にとってとても安心できるものだった。
耳元で語る周の声を、彼の体温を感じながら聞いていると、何故だか視界がボヤけてきた。そこで、吹雪は自分が泣いているのだとやっと気づくことが出来た。
涙を拭こうと手を動かそうとしたけれど、周が強く抱きしめており、吹雪は涙を拭う事が出来なかった。
「周くん………私………」
「……本当は昔の話も聞きたい。けど、もう1つ辛い事を思い出すのは吹雪さんにとって悲しい事だから………その傷を俺が癒せたら………また、聞かせてください。そうしたら、また癒してあげられるから」
そう言うと、周の腕の力がまた強くなる。
吹雪の耳は、ドクンドクンッと彼の鼓動に支配されてしまう。
だけど、それが今の吹雪には何よりも安心出来る場所だった。
「………怖かった………」
「……うん……」
「冷たい目も、鋭い言葉も、周りの視線も………怖かったの………」
「そうだね………吹雪さんは間違ってない」
周の言葉とぬくもりに甘え、吹雪はその日やっと泣く事が出来た。
大人になると涙を我慢する。
大人になると独りで泣こうとする。
大人になると甘えるのが恥ずかしくなる。
そんな、立派な大人というレッテルを剥がしてくれる。周は、不思議な存在だった。
ホストの男性は甘い香りがすると思っていた。気高く、花のような高貴な香りを纏っているようなイメージだが、周は違った。
どこか懐かしい、自然の香りがしたのだった。