アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「ありがとう、周くん」
「…………」
「………周くん?どうしたの?」
何故かポカンとした表情で吹雪を見たまま固まってしまったので、吹雪は彼の顔を覗き込み声を掛けた。すると、周はハッとして少し頬を赤くした。
「ご、ごめん………泣いた顔より笑った顔の方がやっぱり可愛いんだなって思って」
「………っっ………」
「だから、これから泣かせないようにするね。吹雪さんのためにも、俺のためにも」
ポンポンと、頭を優しく触れるように撫でた周。そんな彼を見て、吹雪は思っている事がポロッと言葉になって出てしまった。
「………それはホストの台詞なの?」
「え?」
「…………ごめん。何でもないよ」
「え、台詞っぽかった?じゃあ、吹雪さんドキドキした?良かった?」
満面の笑みで微笑み、そう問い詰めてくる周。それを見て、先ほどよりもずっと嬉しそうに見ててしまい、吹雪は面白くなくなってしまった。
「………ドキドキしてないよ」
「だよね………残念だなー」
プイッと怒ったように顔を背けてそう言うと、周の落胆した声が聞こえてきた。
本当は、ドキドキしたなど彼に伝えられるはずがない。伝えたくない。吹雪はそう思ってしまったのだった。