アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「………どうして急にデートなの?何か訳があるの?」
「えっと………理由ならありますよ。ホストって同伴あるじゃないですか」
「同伴……?」
聞き慣れない言葉に、吹雪は首を傾げた。
すると、周は「あ、そうですよね」と優しく微笑み、その言葉の意味を丁寧に教えてくれた。
「お店に行く前に、お客さんと外で会う事があるだ。買い物をしたり、食事をしたり……デートのような事をするんだよ。そして、そのまま2人でホストのお店に行く事を同伴って言うんだ」
「………そんなシステムがあるんだ」
ホストの店に行く女性は、吹雪のように一時の甘い時間が欲しくて訪れる人も多いはずだ。けれど、中にはホストに恋をする人もいるだろう。もしそんな想い人とお店の外でも会えるとなったら、希望する人は多いだろうな、と吹雪は思った。
「だから、よかったらデートでその雰囲気を知っておくのもいいかなって思って」
「そっか……いつかは同伴する事になるんだもんね」
「……たぶん。少し人気が出れば、かな……」
「いいよ。デートしようか」
「本当に!?よかった!」
その日もカラオケショップで話をしており、吹雪と周の距離は近いものだったが、デートの承諾をすると、周は吹雪の手を取ったので更に近いものになった。
いつか、周はホストでも人気になるのではないか。純粋さもありながらも、サラリと女の子が喜ぶ事を言ってくれる。少し恥ずかしい台詞も多いけれど、それもまた楽しいのかもしれない。
そうしたら、可愛い女の子とお酒を飲み、デートをして、その相手にも甘い言葉を囁くのだろう。
その姿を想像するだけで、胸がキリキリと痛んでくる。
「吹雪さん?どうかしました?」
「え?何でもないよ。ホストさんと同伴デートなんて体験出来ることじゃないから楽しみだなって思って」
声だけは弾み楽しそうに聞こえたはずだ。
けれど、表情はどうだろうか。
自分は笑顔で答える事が出来ているのだろうか。固まった笑みを見せながら、吹雪は周を見つめる事しか出来なかった。
もう彼との関係を続けられるのか。
吹雪は不安に思いつつも、彼に会う日を心待ちにしてしまっているのだった。