アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
8話「手を繋ぐ距離」





   8話「手を繋ぐ距離」




 周とのデートの日が近づくにつれて、切ない気持ちになったり、でも楽しみにしてしまったり、と吹雪の心情は複雑だった。
 それでも、そのデートをキャンセルしようとする気持ちは出なかったのだから吹雪は期待の方が大きい事に気づいていた。

 当日は、出掛ける数時間前に起きてデートの準備をした。スキンケアやマッサージを念入りにして、メイクやヘアセットもいつもより時間をかけて丁寧に行った。洋服もずっと前からいろいろ考えて決めていたので、それを着つつも「他の方が似合っていたかも」と悩んでしまうのだ。
 本当にデートを楽しみにしている彼女のようだな。そう自分勝手思っては頬を赤くしてしまうのだった。

 4月に入り、気候は一気に温かくなった。何かのスタートの時期でもあり、出会いの季節でもある春は、妙な感情が街に溢れている。その雰囲気が苦手だという人もいうけれど、吹雪は期待と不安が混じりあった気持ちが今の自分と合っているような気がして安心出来ていた。
 待ち合わせの場所まで向かいながらも、吹雪の心はそわそわしていた。やはり止めた方がよかったのだろうか。けれど、練習に付き合うと言ったのは自分なのだから、最後までやらないと。心の中でそんな葛藤をしているうちに、あっという間に待ち合わせの場所についていた。
 すると、すでに周は待ち合わせの場所におり、真っ直ぐ前を見て待っていた。
 隣に立つ女性や周の前を通る女性が彼に視線を向けているけれど、周は全く気になっていないようだ。
 今からあの人とデートをする。そう思うだけで早く彼の元に駆け寄って行きたい。けれど、足が動かなかった。すると、その視線に気づいたのか、周がこちらを向いた。彼と目が合っただけで体が痺れるような感覚になる。

 「吹雪さん!」

 そう言うと、周は満面の笑みでこちらに駆けてきてくれる。それだけで、ここに来てよかったと思えてしまうのだ。



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