アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
まず2人が向かったのは本屋だった。
周が「おすすめの少女漫画教えて!」とリクエストがあったのだ。吹雪もいつか教えるつもりだったので、本屋に行って平積みになっている人気の漫画本を見たり、吹雪のおすすめのものを教えたりした。周は1つ1つチェックしてスマホのメモに残していった。その中でも気になるものは購入しており、彼が本気なのが伝わってきた。
ホストになるために、知らない年上の女に練習相手になってほしいと頼むぐらいに必死なのだ。彼はそれぐらいホストになりたいのだろう。
そう思ったときに、彼はどうしてホストになりたいのか、自分は知らないのだなと吹雪は思った。
本屋の後は、周のおすすめの店に行くことになっていた。徒歩で歩ける距離なので、2人はまた手を繋いで街を歩き始めた。
吹雪は、その時間に気になることを彼に聞いてみる事にした。
「ねぇ、周くん?」
「ん?どうしたの?」
「周君ってどうしてホストになりたいの?ホストになるのが夢だったの?それとも何か理由があるの?」
吹雪がそう質問をすると、周はすぐにその返事をくれた。
「お金が欲しいんです。……まとまったお金が」
「………お金?」
「はい。やりたい事があるので、そのためにホストになろうとしました。けど、そんなに長い間やる事も出来ないので。短期的にお金をためようと思って……」
「なるほど。ホストは売れれば稼げるものね」
真っ直ぐな視線で、迷うこともなく答えてくれたので、本心なのだろう。
だが、吹雪は自分の考えていたものとは違う答えだったので少し驚いてしまった。けれど、お金のためにホストを選んだからにはやり遂げようとする姿勢を感じられた。
吹雪は「やりたい事って何?」と聞きたかったけれど、周はそれを話そうとはしかった。
彼が話す気がないのに、吹雪から聞けるはずもなく「じゃあ、頑張らなきゃね」と言ってその話題を終わらせてしまった。
ホストの練習相手は期間限定だとわかっていた。
けれと、吹雪が思っていた以上に短い時間になりそうだった。
周の考えを知ってしまい、吹雪は思わず周と繋いでいた手を強く握りしめてしまったのだった。