アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「あー………バレちゃった?まぁ…………ちゃんと話さなきゃいけない事だったね」
「勝手に見てしまってすみません…………。あの、私………」
「実はさ、出世するために幹部の娘さんと結婚することになったんだ。まぁ、その相手が………俺の好みじゃないんだよ。だから、結婚しながらも恋愛したいなって思って。吹雪ちゃんは、美人だし趣味も会いそうだし、恋人にしたいなって思ってたんだよね。どうかな?隠れてだけど、デートはするし、プレゼントも買ってあげられる。愛していきたいんだ。だから、そういう関係にならない?」
微笑んでいた表情が少しずつ固まっていく。口元がひきつってしまいそうだった。
この人は何を話しているのだろうか?
婚約者がいるのに、愛人をつくろうとしている。先ほどまでの笑顔と優しさは、偽りの恋愛を楽しむための言葉の罠だった。
光弥という男は嘘をついていた。
その瞬間。ずっとずっと忘れたいと思って心の深い深い奥底に隠していた思い出が、蘇ってくる。冷たい声と、聞いたこともないような本音。今でもその言葉を思い出す度に、何度でも吹雪を傷つけるのだ。
その記憶からも、目の前の彼からも逃げ出そうと、吹雪は鞄を手に取り、財布から一万円札を取り出すと、テーブルの上に置いて、立ち上がった。