アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「恋人なんて言ってごめん」
「いいの、気にしないで。それに助けてくれたんだから。私がお礼を言わなきゃいけないぐらいだよ。………ありがとう、周くん」
「………幼馴染みさんに会ってから、ボーッとしてるね。あんな事言われたんだ……仕方がないよね」
「ごめんね………私のせいでこんな風になっちゃって………」
「吹雪さんのせいじゃないよ。………家まで送ってくよ。確か、駅から近いんだよね?」
「うん………ありがとう」
周の好意に甘えて、吹雪は彼と一緒に夜道を歩いた。すると、途中でポツリポツリと雨が降りだした。
「あ………雨………」
「吹雪さん、風邪引いちゃうね。急ごう」
「うん、あの見えてきた茶色の煉瓦模様のマンションだよ」
「わかった。そこまで走ろう!!」
そう言うと、周は吹雪の手を繋いだまま走り出した。彼に引っ張られるようにして走る。けれど、周は吹雪が無理ない程度のスピードで走ってくれる。
雨のせいで、彼との時間が短くなってしまうのは嫌だったけれど、涙は隠せるので吹雪は安心した。我慢していた涙は、雨水と共に頬を伝って落ちていく。それと一緒に悲しみさえもなくなればいいのに、と吹雪は思った。