アラサー女子は甘い言葉に騙されたい



 「吹雪さん、お風呂ありがとうございました」
 「あ、おかえり。………その、今、ご飯炊けるから。それとスープも作ったからもしよかったら食べてて。かなり質素なものだけど………」
 「吹雪さん作っててくれたの?嬉しいな………」
 「先に食べてていいからね」
 「吹雪さんがお風呂から上がってくるの待ってるよ」
 「…………ありがとう」


 吹雪は恥ずかしさからあまり彼の事を見れなかったけれど、彼が喜んでいるのを感じられ吹雪は嬉しさを噛み締めていた。
 けれど、お風呂に入りながら今の状態を冷静に考えてみると、とてつもなく大胆な事をしているのに気づいた。

 恋人でもない男の人を女である自分から誘ったのだ。しかも、それが片想いの相手。友人の麗が知ったら驚くだろう。
 けれど、これはこうするしかなかった。彼が風邪を引いてしまうからだ。と、何度も言い訳をしながら、吹雪はお風呂場から出た。部屋着に着替えて、周が待っているリビングに向かう。

 すると、周は「おかえり!しっかり温まった?」と、笑顔で迎えてくれた。吹雪は「うん」と返事をすると恥ずかしさからすぐにキッチンへと向かった。うっすらと化粧はしたものの、素っぴんに近い顔を見られるのは、さすがにすぐに慣れるものではない。吹雪は内心では照れくささが我慢出来ずに、簡単な夕食を2人分作り上げた。




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