アラサー女子は甘い言葉に騙されたい



 「俺は無理なんだよ」
 「…………そっか……わかった……」


 それ以上吹雪は何も言えずに、2人の間には気まずい雰囲気が漂った。その後は、何も会話を交わさずに学校に到着し、それぞれの席についた。

 その日は吹雪は誰とも話す気力もなく、「体調が悪いから……」と言って、昼休みは保健室に行く降りをして校舎裏に本とお弁当を持って逃げ込んだ。
 お弁当をすぐに食べ終えて本の世界に浸ってしまおう。そう考えていたが、思い出すのは今朝の星の表情だ。

 恋人なのに、何故友達に紹介してくれないのか。恥ずかしいという理由だけなのだろうか。
 考えは悪い方向へといってしまう。

 星はそんな人じゃない。
 彼は自分を好きでいてくれている。大切にしてくれている。そう信じていた。
 だって、幼馴染みだから。

 けれど、薄々気づいていた。
 星から1度も「好き」と、言われていない事に。

 だが、吹雪から彼に「私の事好き?」と聞けるはずなどなかった。
 唯一、何でも言える人だと思っていたのに、本当は星にさえも素直に聞けない事があるのだ。
 それは、恋人同士で1番大切な気持ち。
 自分を好きかどうか。




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