アラサー女子は甘い言葉に騙されたい



 そのはずなのに、目に涙が溜まるのは何故だろうか。
 今、泣くのはダメだ、そう思っているのに、周は吹雪の頭に触れ髪をとかすように優しく撫でて始めた。


 「………俺、見てないよ」



 周の言葉は一つ一つが思いやりに満ちている。
 自分が泣きそうになっている事。
 そして、泣いてもいいよと言われている事。

 この人の前ならば涙を我慢しなくていいんだ。

 そう思った瞬間に、吹雪の今までの緊張の糸がプツンッと切れる音がした。途端に涙がこぼれる。次から次へと涙がこぼれ落ち、肩を震えてくる。涙が出ると何故が呼吸が苦しくなり、声もあふれてくる。そうなってしまうと、止められない。周の胸の中で、自分が使っている柔軟剤と彼の香りが混ざった少しくすぐったい香りを感じながら、吹雪は今まで我慢していた感情を爆発させたのだった。

 星の行動により、吹雪は人を、特に男性を信じるのが怖くなった。それでも、一人は寂しかったし、恋人に憧れていたので、好きな人が出来れば歩み寄ろうとしていた。けれど、その度に星の言葉が頭を過った。伸ばしてかけていた手を止め、開きかけた口を閉じた事は何度もあった。
 そして、家族の地位の恩恵を預かろうと寄ってくる人たちも多かった。そんな人から逃げていく自分も切なくて仕方がなかった。

 
 どうして?
 なんで?


 吹雪は、そんな感情を涙と嗚咽に変えて、その夜は泣き続けたのだった。








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