アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
眠気がなくなったのか、ニコニコしながら洗面所へ向かう周を呼び止める。
そして、吹雪はまだ少し腫れた瞳のまま、彼を見据えた。
「………昨日はその………ありがとう」
「いいよ。また、何か話したいことあったら聞くからね。相談事にのらなきゃいけない事もあるだろうしね」
「え…………あ、そうだね………」
「顔洗ってくる!洗面所借りるね」
「うん………」
いつもと変わらない彼の口調と表情。
それなのに、何故か「違う」と感じてしまった。
それに、周の言葉に胸が痛んだのだ。
彼が話しを聞いてくれたのは「吹雪を癒したいから」ではなかった。いや、そうなのかもしれない。けれど、それはホストが客にしてあげる事と同じだったのだ。
周との距離が狭くなり、お客さんよりは近い存在になれていたと思えていた。
彼の言葉や態度、そして表情や行動でそう思っていた。けれど、それは吹雪の勝手な思い込みだったのだろうか。
「………失恋確定、かな………」
吹雪は見えなくなった静かな部屋で、消えそうなほど小さな声で、そう呟いき、何故だか笑みを浮かべた。