アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
ピンポーンッ
部屋に玄関の呼び鈴が響いた。
吹雪は思わず体がビクッと震えてしまう。
夜中という時間に、来客を知らせる音。もちろん、誰が来る予定もなかった。
吹雪は、どうしていいのかわからずに、ベットの上で固まってしまった。
けれど、寝てしまっていると思われればいいのではないか。
こんな時間に誰かがこの部屋に来るはずもない。そう思って、呼び鈴を鳴らした相手が帰ってしまう事を期待した。
一人暮らしをしていて、知らない誰かが訪ねてくる事はとても怖いのだ。
吹雪は、震える体を自分の腕で抱きしめながら心の中で「帰りますように帰りますように………」と、呪文のように唱えた。
すると、スマホがブブッと鳴った。
その音にも驚いたが、表示されたメッセージを見た瞬間、吹雪はベットから立ち上がった。
そして、駆け足で玄関に向かった。
鍵を開けて、ドアを開く。
「周くん………!」
「あ、吹雪さーん。起きててくれたんだねー」
そこに居たのは、頬を赤くして、目がとろんとしている周だった。
「ただいま、かえりましたー!」
「ちょっ………周くん!?」
玄関先で、思いきり周に抱きしめられ、吹雪は体を硬直させてしまう。
「吹雪さん、おかえりないはー?」
「…………周くん、お願い離して!」
「嫌ですよー」
上機嫌な周だったけれど、強い力で抱きしめてくるので、吹雪は彼の腕の中でバタバタと暴れる事しか出来なかった。