アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
キスをされたという事実から、冷静になろうと、吹雪は大きく息を吐きながら、廊下に出た。好きな人とキスをしてしまったのだ。だが、嬉しさと戸惑いが混ざった複雑な心境だ。
ドキドキした気持ちのまま玄関に向かうと、鍵は開いたままで、靴は散乱しており、そして周のバックは彼が落としてしまったのか、中身が飛び出てしまっていた。
「もう………周くんったら、バックのチャック開けっ放しだから、中身が出てきちゃってるよ………」
吹雪は鍵を閉めた後、靴を直し、彼の鞄を拾い上げた。すると、彼の財布も玄関に落ちてしまっており、入っていたカードやお札でもが出てしまっていた。
苦笑しながら、それを財布に入れようとした時だった。吹雪はある1枚のカードに目が留まった。
「これって………学生証………」
そこには、彼の少し若い頃の写真が載って、大学の学生証が入っていたのだ。名前は「右京周」と書かれている。彼のもので間違いないようだった。そして、そこには芸術大学の大学院と書かれていた。
「周くんは…………大学生…………」
大学生だからホストのアルバイトをしてはいけない、という事はないはずだ。周は23歳なのだから問題はないだろう。
けれど、学生だという事を吹雪には話してはくれていなかった。
それがショックだった。
けれど、やはり周との関係はただの練習台の女というだけなのだろう。
相談事を聞いてくれたり、泊まってまで心配して一緒にいてくれたり、酔っていたとはいえキスをしたり………少しは彼の特別に近づけたのかと思っていた。
吹雪が周が「好き」という気持ちと、彼が吹雪を思う気持ちは違うのだ。
そう思った瞬間に涙が溢れてきた。
何度も彼の言葉で「違う」と思ってきたではないか。それなのに、どうて、彼をそこまで信じていたのか。
それは、自分が周を好きだったからだ。
もう彼への気持ちは我慢出来るものではないと、吹雪自身気づき始めていた。
だからこそ、彼との関係に未来がないのでれば、傷つく前に終わりしないしなければ、そう思った。
「………周くんにお話ししなきゃ………」
吹雪は涙を手で拭いながらそう呟いた。
持っていた周の写真を見つめながら、吹雪はそう決心したのだった。