アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「今日はどこに連れていってくれるの?」
「内緒!吹雪さんが喜ぶところだと思うよ」
「気になるなー」
「楽しみにしてて」
周はそう言うと、美味しそうにパンを食べながら笑った。
穏やかな平日の午前中。春の心地いい風が公園の中に漂っていた。どこからともなく花の香りがしてきて、ホッとする平和な時間帯だった。
こんなゆったりとした時間を周と過ごす。
最後に相応しいデートだな、と吹雪は思った。
隣に座るだけで、落ち着いて、でもドキドキもする。大切な好きな人。だけれど、周が同じ気持ちでなければ恋人になれないのだ。
どんなに好きだとしても、叶えられない恋愛もある。
「周くんは本当にかっこいいホストになってるよね。私が好きだなって事いろいろわかってくれてるし、自然に褒めてくれるところ、本当に嬉しいんだよ。だから、きっと立派で有名なホストになれるんじゃないかな?」
くしゃりとパンを包む紙が潰れ、柔らかいパンも形を変える。
本心でそう思っているはずだから彼にその言葉を伝えたはずなのに、どうしてか彼の方を見れない。それに、切ない気持ちになってしまう。
そんな吹雪の変化を彼が見逃すわけはない。
「………どうしたの?」
「え?」
「最近、ホストの話しをする時吹雪さんの顔が悲しそう。………俺、何かした?」
「そんな事ないよ。頑張ってるなーって思ってるだけで……」
「俺は吹雪さんを笑顔にしたいって思ってるだけだよ」
「………ありがとう………」
どうして、そんな事を今さら言うのだろうか。そんな事を言われてしまったら、少しだけ期待してしまう。
彼も同じ気持ちなんじゃないかと。
吹雪は、自分の気持ちを隠し通せずに、悲しげな表情から、頬を赤くして、周の瞳を見つめながら笑顔を見せたのだった。