アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
突然、後ろから男性の明るい声が聞こえたので、吹雪は体をビクッと震えさせてしまう。
もしかして、ここのホストだろうか。
そう思い、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには背の高い男性がこちらを覗き込むようにして立っていた。小さな顔に整った鼻、唇も形が綺麗で、そして少し垂れ目な茶色の瞳が印象的だった。微笑んだ表情は少年のようなのに、どこか色気がある。そんな不思議な男性だった。
「このお店入るの?」
「え、あ………ちょっと迷っていて………」
ここの店のホストなのだろうか。
だとしたら、「はい」と言ってしまえば案内して貰えたのかもしれない。そんな事を思いつつも、まだ内心では入店を迷ってしまっていた。
すると、戸惑っている吹雪の様子を察知したのか、その男は「もしかして、ホストクラブ初めて?」と、少し驚いたように聞いてきた。
はじめて会った男性と話すような事ではないかもしれない。けれど、もう会わない人だからこそ、言ってしまおうとも思えた。
「はい………。初めてなんですけど、1回だけ行ってみたくて……」
「へぇー………気になる人がこの店にいるとか?」
「違いますよ!!………その、甘い体験がしたくて………」
自分で説明するうちに恥ずかしくなり、吹雪は顔を真っ赤にしながら俯いた。
すると、目の前の彼は笑う事もなく「なるほど……」と納得した様子で呟いたのだ。
吹雪は不思議に思い、思わず顔を上げて彼の顔をまじまじと見てしまう。
「だったら、ちょうどいい!僕と少し飲みに行きませんか?」
「え………!?」
「話し聞いて欲しいんです」