アラサー女子は甘い言葉に騙されたい




 作品はいろとりどりの食器や小物入れがあった。アクセサリーなどもあり、気軽に手に取れるものも多かった。そのため、女性客も多かった。吹雪も花の形をした硝子のヘアピンを見つけて購入しようか迷ったぐらいだった。

 一通りの作品を見終わった後も、周は戻ってくることはなかった。
 柴田と周が入っていった部屋の前で少し待ってみる事にすると、ちょうどスタッフがその扉から出てきた。
 すると、柴田の大きな声がもれて聞こえた。ギャラリーに届くほどではなかったが、ドアの前に居た吹雪には聞き取れるほどのものだった。


 「周、本当に女を連れてきたんだな!しかも、あの明日見って明日見総合病院の娘さんだろ?俺の地元が同じだからすぐにわかったぞー。いい女見つけたじゃないか!」


 柴田の話す内容が耳に入った途端、吹雪はドクンッと胸が震えた。
 彼らは何の話しをしている?
 自分の話しをしていて、どうしてそんな話しをしているのか。

 きっと聞いてはダメな事だ。
 聞いてしまったらショックを受ける。自分が傷つくのではないか、そんな予感がした。その勘は今までよく当たり、吹雪は聞かない方がいいのわかっていた。
 それなのに、足が地面にくっついたかのように、その場から動けなかった。


 「柴田さん、俺はそんなつもりは………」
 「約束は約束だ。ここのギャラリーを持つ経営者さんには俺が紹介しておこう。まさか、俺が「女を作って俺に紹介すれば、ギャラリーを紹介してやる」って約束を、周が実行するなんてなー」


 頭がくらくらした。
 柴田の言葉が信じられなかった。
 けれど、周の次の言葉はもう吹雪の頭の中には入ってこなかった。

 周と出会ったのは偶然だった。
 そこで、彼の提案でホストの練習台になり、優しくされ甘い言葉を言われているうちに、本当に好きになってしまった。
 そして、そんな周に言われるままそのギャラリーに来たのだ。

 周の目的は、全てこれのためだったのだろうか。
 そう思うと、吹雪は目眩がしてきた。
 そして、涙が浮かんでくる。

 怒るよりも、裏切られたという悲しい結末が信じられなかった。


 想いを伝える前に、この恋は終わってしまった。
 いや、始めから恋などではなかったのだ。


 周の声が聞こえたが、それはもう吹雪には聞こえない。


 吹雪はフラフラとその場から逃げるように立ち去ったのだった。






 
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