恋に負けるとき
「田所さん!」
後ろからの俺の声に
ビクって
立ち止まってくれる。
「ごめん!」
背中を向けたままの田所さん。
「ほんっと、ごめん!」
ああ、これは
謝り倒すしかないよな?
やっばいよな。絶対嫌われた。
焦るだけで、ごめんしか出てこねえ。
「怒ってる、よね。
ごめん」
ぶんぶん。
田所さんが無言で首を振る。
「ごめん」
こくん。
首を縦に動かして、返事してくれる。
「怒ってない?」
こくん。
「ほんとに?」
こくん。
「じゃあ、なんで
こっち向いてくれないの。」
カチンコチンって音が聞こえそうなほど
身体を固めて
動かない田所さん。
もしかして
「…恥ずかしいとか?」
俺は聞いてみる。
こくん。
ちらっと見える首すじも赤い。
「それだけ?
まじで、俺のこと変態とか思ってない?」
こくん。
「気持ち悪いとか
思ってない?」
こくん。こくん。
ほんとに?
もう終わったかと思ったけど
「ほんと、ごめんね」
こくん。
俺に欲情されて
声も出せないくらい
恥ずかしがる田所さん。
可愛すぎて
懲りないおれは
「…抱きしめてもいい?」
こくん。
流れでうなずいた田所さん。
「…え?」
おれの言葉に気づいたけど、
「遅いよ」
言葉を発すると同時に
後ろから抱きしめる。