恋に負けるとき
「田所さん?」
逃げないでいてくれたことに
勇気をもらって
「田所さんの思っていること、教えて?
何にも遠慮とか、
隠したりしないで
思ってること、
そのまま全部、教えて」
触れそうなほど近い
田所さんの瞳をのぞきこんで
言ってみる。
「そのまま?」
「うん」
しばたいたまつ毛があがって
田所さんの瞳からまた
涙が盛り上がって
ポロン。
こぼれた。
「だって、私なんか、かわいくもないし」
手で押さえた口もとから
くぐもった声で
田所さんが言うから。
「めっちゃ、かわいいし」
思わずおれも気持ちを言っちゃう。
「何で、渋谷くんがわたしを
誰かと勘違いしてるんじゃないかって
思って」
いや。田所さん。
ここまできて、勘違いしてたら
おれ、かなりヤバいやつ笑
「面白くもないし」
涙はとめどなく
「自分がわかってないな」
俺は笑っちゃう。
「後は?」
まだ攻めるおれに。
「だって…
私なんか幼すぎて、
みんなみたいに、ちゃんとできなくて
きっと渋谷くん、すぐ呆れちゃうもん。」
うえーん。って感じで、
ついに泣きじゃくるように言葉をこぼす
かわいい田所さん。
「ほんとは、
好きだって言ってくれて、
夢みたいで嬉しかった。
でも、渋谷くんと付き合うとか
考えただけで、心臓がどきどきして、
どうにかなりそうだし。
わたしには彼女なんて
無理だって思って
それで、自分の気持ちばっかり優先して
結局
渋谷くんのこと傷つけて。
こんなわたし。
きっとすぐに
渋谷くんにゲンメツされて、
嫌われちゃうって思うのに。」
おれは
おれを振る理由をたくさん
思いつく
田所さんの両頬に、手を添える。
心臓が
胸が
内側から
熱くて
たまらない。
おれは田所さんの視線を捉えて
「大好きだよ」
もう一度
田所さんにキスした。