続・闇色のシンデレラ
SIDE 光冴



まさかこんなことになるなんて思ってなかった。

本家の組員が運転する車の助手席で揺られている俺は動揺を隠せないでいた。



「しかし、優しいですね~壱華さんも」

「ん?どうして?」

「わざわざ憂雅のためにケーキ買ってきてやるなんて……」

「あー、出かけたかった口実みたいなものだから。凛もごめんね?忙しいのに」

「いえ、今日は本家は客が来るっていうから大人しくしてるつもりだったんでいいっすよ。
俺みたいなガキはお客への応接できませんし」



後部席で楽しげに話し合っている壱華は、最近見習いで入ったという凛太郎というガキを連れてきた。

司水さんがこいつを連れていくなら俺との同伴を許可するくらいだから、割とできるガキなんだろうな。



「おっ……」

「動いてます?」



バックミラー越しに壱華を観察すると、穏やかな表情でお腹を撫でている。

ずいぶん大きくなったお腹はもう7ヵ月らしい。

らしい、というのは、理叶から聞いた情報だから。直接壱華に話しかけることなんてできない。



「うん、最近動きが活発でね。早く出せって言ってるみたい」

「さすが若の子どもだから暴れん坊……あっ」

「そうね、志勇に似たら確実にガキ大将気質だろうから心配だわ……」

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないっすよ!」

「ふふっ、分かってるよ」



その時、ふと壱華が笑った。

鏡越しでもはっきりと見えた壱華の笑みに体が強ばる。

初めて見たんだ、壱華がそんな風に、自然に笑うところを。

改めて、俺といた頃の壱華はいないんだと、小さな挙動に反応してしまうほど、壱華との距離があまりにも大きいと知り、心が陰るのを感じた。
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