続・闇色のシンデレラ
公園を横切り、目的の展望台へ向かった。コンクリートでできた屋根付きのそれは、見晴らしのいい切り立った崖のような場所に建てられていた。

高さでいうとビルの3階くらいに相当するだろうか。

登ってみると、風が通るような造りのおかげか思ったより涼しい。昼時だからか、この時間に展望台で景色を眺める人はいなかった。

わたしは景色を見るために手すりのふちに手をかけた。



「綺麗だね」



そこから見えるものは確かに美しかった。

公園を一望でき、その奥にはひしめきあう高層ビル群、さらに入道雲と、夏らしい都会の景色が視界いっぱいに広がった。



「一度来てみたかったんだ。光冴、言ってたでしょ?ここから見る景色が綺麗なんだって。
ほんとは夜景を見に来たかったんだけど、夜は怖いから……」



展望台には二人きりだった。これはわたしが凛に頼んだ、二人きりにしてほしいと。

きっとこんなことが知られれば志勇に怒られるんだろうけど、この機会を逃したら、心にかかった取っかかりが消えない気がした。



「あと、これ」



わたしは持っていたケーキの箱を差し出した。



「ガトーショコラ。光冴、チョコ好きだから食べられるでしょ?」

「俺に……?」

「……変な意図はないから。受け取って」



それでも受け取らない光冴は、困惑の表情を浮かべていた。



「なんでだろうね。あんなにひどいことされたのに、今となっては楽しかった思い出が頭を過ぎるの」



だからわたしは一旦手を引いて再び景色を眺めることにした。



「よくバイト先に来てくれたなって。光冴と理叶と、色んな事話したなって。
会うたびにまた会いに来るねって言ってくれて嬉しかった。
家で、どんなにひどい扱いを受けても、光冴と理叶に会えるんだと思えば耐えていられた」

「……」

「バレンタインの日、光冴は女の子にたくさんお菓子をもらって、もう甘いものはいらないなんて言ってたのに、わたしが作ったガトーショコラは食べてくれたんだよね。
お礼に今度、夜景が綺麗な公園に行こうよって誘ってくれたこと、どうしてだろうね、今も覚えてるんだ」



思い出話を少しして、視線を光冴に戻した。

すると彼はやっと、正面から私の目を見つめてくれた。



「本当に……」



口を固く閉じていた彼は、わずかに言葉を発すると、今にも泣き出しそうに眉根を寄せ目を閉じた。




「よく覚えてるなぁ、壱華ちゃん」




彼は顔を上げて、眉を下げ困ったように笑った。
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