エレベーター
少しでも動いていたかったのだ。


「一穂は幸生のお見舞いに行くんでしょう? あたしのことは心配しなくていいよ?」


あたしは一穂が持っている紙袋を見てそう言った。


中からフルーツセットが覗いているから、きっとお見舞いへ行く途中だったのだろうと予測できた。


「そうだけど……。明日でも大丈夫だから」


本当は一刻も早く幸生の元へ行きたいはずだ。


それなのに一穂はあたしの後ろをついて来る。


「それに、なにかわかったらすぐに幸生にも伝えてあげたい」


そう言う一穂の声は怒りで微かに震えていた。


まるで幸生のかたきを取らないといけない、武士のようだ。


それならそれ以上文句を言うこともできず、あたしたち3人は事務室へ急いだ。


休日でも先生が出勤していれば来客だってある可能性がある。


その読みが当たり、今日も清田先生は出勤してくれていた。
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