エレベーター
廊下にも他の教室にも誰もいない。


そろそろ慣れてきてもいい頃なのに、この異様な雰囲気が漂う空間には慣れることができなかった。


あたしはすぐにスマホを取り出して充弘にビデオ通話をした。


『またか……』


画面の向こうで充弘が疲れたようにそう言った。


試に充弘と一穂がいるはずの窓の下を確認してみたけれど、やはりここからではその姿は見えなくなっていた。


「今からエレベーターに向かうね」


あたしは機械的な声でそう言うと、古い校舎の階段を下り始めた。


こっちの階段しか使えないことは、すでにわかっている。


『気を付けろよ』


一階に到着したとき、充弘がそう声をかけてきた。


あたしは小さく頷く。


でも、気を付けるといっても、どう気を付けていいかわからなかった。
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