エレベーター
影から逃げようと後退するものの、箱の中ではどこにも行き場がない。


あたしは真っ白な目を見開いた影を見つめていることしかできなかった。


この人が咲子さんなんだろうか?


このエレベーター内で亡くなり、今でもまだここにいる……。


「あ……あなたは殺されたの!?」


あたしは声を振り絞ってそう聞いていた。


情けないくらい震えた声で、聞き取れたかどうかわからない。


しかし次の瞬間エレベーター内の気温がスッと下がったのがわかった。


一瞬にして吐く息が白く変わり、まるで冷凍庫の中にいるかのように空気が冷たくなったのだ。


「な、なに……?」


箱の中を見回してみても、今までとなにも変化はなかった。
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