エレベーター
「あの……少し話があるんだ」


そう言う前原君の頬はほんのり赤く染まっていて、前原君の心中を察してしまった。


あたしは困って眉を下げた。


昔から、あたしは男子に気に入られることが多かった。


けれどあたしは片足がないことに加えて、生まれつき体も弱い。


こんな自分に男子たちを付き合わせるわけにはいかないのだ。


最初は好きだと思っていても、すぐにあたしのことが重荷になることは目に見えている。


それなら、最初から誰のことも好きにならず、1人の時間を満喫したいと考えていたのだ。


「ごめん。あたし忘れ物を取りにいかないといけないの」


あたしは早口にそう言うと、前原君の気持ちを聞く前に車いすを操作して移動させた。


けれども前原君は執拗についてこようとはしなかった。


きっと、あたしの気持ちを察してくれたのだろう。


そう考えて安堵し、エレベーターのボタンを押す。


この時間はもうエレベーターを使用している生徒がいないから、箱はすぐに降りてきてくれた。


いつもと同じようにエレベーターに乗り、そして車いす用の低い位置にあるボタンで3階を押す。


次に閉まるボタンを押そうとした……その瞬間だった。


ガンッ! と音がして、閉まりかけた扉に手がかけられたのだ。


義手が箱の中の電灯によって刃物のように光って見えた。
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