エレベーター
顔を見せたのは前原君だった。


「前原君……」


前原君の顔はどこか必死だった。


あたしを睨み付けているようにも見えて、恐怖心を抱かずにはいられなかった。


「なんの用事? 話なら後でちゃんと聞くから」


とにかくエレベーターから下りてもらおうと思って早口で言った。


しかし前原君は無言でエレベーターに乗り込んできたのだ。


車いすから見上げる前原君の顔はとても怖かった。


頭上から電気が降り注ぎ、顔半分が影に隠れて黒く染まっている。


しかし目だけはランランと輝き、あたしを見つめているのだ。


「えっと……何階に用事?」


そう質問した次の瞬間だった。
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