エレベーター
ジワジワと浮き出して来る手足、胴体、顔。


最初は大雑把な輪郭だったのが、浮き出してくるたびに指先まで鮮明に現れ始めていた。


親指、人差し指、中指、薬指、小指。


すべての指まで、爪の先までがしっかりと形成された影になる。


影はゆっくりとこちらへ向いた。


あたしは影に射すくめられ、その場にズルズルと座り込んでしまった。


スマホからは3人の声が聞こえて来るけれど、それももう耳に届いて来ない。


う……うぅぅぅぅぅ。


影が、うめいた。


仲間の声は届かないのに、ソレは確かにあたしの耳に届き、鼓膜を震わせた。


低く、苦しんでいるような、女の声。


「キャアアアアアア!!」


張り付いていた悲鳴が上がった瞬間エレベーターは3階に到着し、扉が開いたのだった。
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