春学恋愛部
騒がしい廊下を通り抜けて非常階段へと出る。
文化祭の喧騒が嘘のように、静かな空間が開けた。

「私、華さんと話したの」
一瞬ぴくりと反応したけれど、海斗は柚果を見下ろして唇を耳に寄せる。

「お前には関係ないことだろ。もう、その名前は出すな」
有無を言わせない強い口調で言い切られ、耳たぶを舐められると、柚果の背中がぞくりと震えた。

慌てて海斗を押し退けて「ちゃんと聞いて」と睨み付ける。
海斗は面倒くさそうな表情になって、軽く舌打ちする。
「もう言うなって言ってんだろ」

氷のように冷たい表情に柚果は怯むけれど、負けちゃだめだ、と思い直した。

「海斗は華さんのことが、まだ好きなんじゃないの?
好きなんだとしても、そうじゃなくても、華さんときちんと向き合わないの?
そんなの海斗らしくない。
体育祭でビリになったって格好悪くないけど、華さんから逃げてる海斗は格好悪いよ!
華さんの一番でいたかったんでしょ?
一番じゃなかったって言われたんなら、一番になろうと頑張ればいい。
今からだって遅くない。
諦めて、そのくせ拗ねて彼女を突っ張ねるなんて子どもと一緒だよ」

柚果は口を挟まれたら言えなくなると思って、一気に捲し立てた。
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