春学恋愛部
「うわ、なんだか緊張する……」
呟いた拓馬と共に、柚果もステージに目を向ける。
マイクを持っている男性は、落ち着いた雰囲気で一見怖そうに見える。何本かの皺は刻まれているものの、整った顔は間違いなく海斗の父親だった。

挨拶が始まるとに表情がにこやかに変わる。
やっぱり海斗に似てる。笑うとなんだか少年みたいだ、と柚果は思った。

海斗の父親の隣には華によく似た女性。その両脇に華と海斗が控えている。

「それでは、乾杯」
パーティが始まった。
院長一家は挨拶に忙しく、柚果達とは時々すれ違うものの会話もすることがなく1時間が経過した。

「柚果ちゃん、このオレンジピールのムース絶品だよー。後で華ちゃんに食べさせてあげよーっと」
いい加減緊張がほぐれてきた拓馬がケーキに舌鼓を打つ。

ここのホテルはドライフルーツをふんだんに使ったケーキが有名だけれど、学生が簡単に買えるようなものではないので、ついつい柚果もつられて口に運んだ。

あ、しまった。
もう太らないようにケーキを食べる時は海斗に報告するって、決めたのは自分だったのに。
まさか海斗気づいてないよね、と気が付いて慌てて周りを見回すと、運悪く海斗が家族と歩いてくるところだった。

「こんばんは。海斗と華のお友達だね。今日はありがとう」と笑顔の父親には見えないように、こっそりと柚果の手がつねられる。

どうやらしっかりと目撃していたらしい。
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