春学恋愛部
騒がしい教室の中で、この場所だけ時間が止まっているかのように誰も動かない。
我慢しきれなくなった柚果が、「海斗、知り合い?」と尋ねた。

「…………」
答えない海斗の代わりに彼女が口を開く。

「私、海斗の……姉です」

海斗の瞳が怒りを帯びて険しくなり、強い口調になる。
「お前を姉だなんて、思ったことねーよ。さっさと帰れ」

吐き捨てるように口にして海斗は「次のお客さんは?」と受け付けに向き直った。

柚果が女の子の方に目をやると、涙を浮かべて立ち上がり走ってドアを出ていく。

柚果は思わず追いかけていた。
「柚果」という海斗の声を背にしながら。
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