クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
・奇跡の夜
 ――この出会いは奇跡だと思った。

 だから会って二時間も経っていないのに、キングサイズのベッドの上で見つめ合うことになっている。
 微かに音楽が聞こえていた。先ほど廊下を通るときに聞こえていたものと同じものだろう。それが部屋の中にまで聞こえてきているのだ。
 品のない場所でなかったことに安心する。飛び込むようにして選んだホテルではあったけれど、いわゆる“それだけ”が目的となるような場所ではない。いかがわしさはこれっぽっちもなく、内装もかなりきれいである。

 とはいえ――今回の目的は言ってしまえば“それ”である。
 この出会いを一度きりのもので済ませたくなかった。
 あと少しだけ側にいたい。そんな気持ちで朝まで一緒にいたいと願ってしまった。

 失敗ではないだろうか。あやまちではないだろうか。
 そんな考えがぐるぐると頭の中を回っては消えていく。

 その間もずっと、視線は逸らされなかった。
 じっと見つめ合い、お互いになにも口にしない。
 相手が次になにをするのか、ふたりして探っているようだった。
 衝動的にこの瞬間を迎えてしまったからだろうか。「愛してる」も「好き」もなく、ぼんやりと薄暗い照明の下で、ひどく速い自分の鼓動を聞く。
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