クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「ロングアイランドアイスティーをください」
「かしこまりました」

 渋いバーテンダーが深みのあるいい声で応えてくれる。
 早速作り始めたその手元をじっと見つめた。

(あれ……? 紅茶は入れないのかな……?)

「今日はおひとりですか?」

 あまりにも熱心に見ていたせいか、バーテンダーに話しかけられてしまった。
 どぎまぎしながら、これも夜遊びらしいと胸を高鳴らせてうなずく。

「そうなんです。今日からひとり暮らしすることになりまして」
「ほう、それはそれは」

 絶妙なタイミングですっとカクテルを差し出される。

「ありがとうございます」

 心の中で自分に乾杯しながら口をつけると、ふわっと紅茶の香りがした。
 その香りと、意外に強いアルコール感が私の背中を押す。

「作っているところを見ていたんですが、いつ紅茶を入れたんですか?」
「ああ、これは紅茶を使わないカクテルなんですよ。見た目や味を紅茶に近付けただけの、ちょっとおもしろいカクテルなんです」
「へえ……!」

(こういうのも、普通は知ってるものだったりする?)

 勇気を出して今日を迎えたけれど、だからといって「なにも知らないんだ」というふうには思われたくない。
 となると、いろいろ聞きたくても控えた方がいいだろう。
 自然と話題は私自身のことになっていた。
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