クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 普段あれだけ強面で他人から敬遠されがちな橋本が、今はどことなくうきうきと楽しそうに目を輝かせている。以前紹介された橋本の妻は、夫のこういう一面を他人に知られたくないからプロポーズしたのだと言っていた。

(他人のこういう話を素直に楽しめるくらい、まともな夫婦生活を送っているんだな)

 そう考えて、なんとなく苦い気持ちになる。
 娯楽を享受できるのは心に余裕があるからだ。そして、橋本と対照的に俺はその余裕がない。

「で……どうなんだ」
「妻がデートだったと思っているかはわかりませんが、自分の中では初めて夕食に誘われたあのときがそうだったと思っています。……なんてことのない、普通のチェーン店でしたよ。そのときにはもう意識していたので、こっちはずっと緊張していました。なのに向こうはそんなことも考えず、好き勝手話しかけてきて」
「つまり、チェーン店で夕飯を食べただけなんだな」
「まとめるとそうですね。何度かそういう時間を繰り返して、向こうから告白されました」
「……別にそこまでは聞いてないからな?」
「それは失礼しました」

 悪びれなく言った橋本は、当時を思い出しているのか優しい表情になっている。おそらく、この顔を引き出せるのは妻その人だけなのだろう。
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