クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(雪乃さんにも、そういう顔があるんだろうか)

 他人と一緒にいるときの雪乃さんを見たことがないせいでわからない。俺が知っているのは、俺がいるときの雪乃さんだけ。
 少しだけおもしろくないと感じる。成り行きはともかく、一応形だけでも夫は俺なのだから、雪乃さんの“特別”は俺のものであるべきではないのかと。

 同時に、やはりそう感じる自分に困惑した。
 彼女の“特別”が欲しいのに、こちらの“信用”は与えない。それは一方的で、独善的で、自分勝手な行為だと感じる。ならば“信用”を与えられるかといえばそうはならない。

(俺は雪乃さんを信じきれないくせに、彼女には愛してほしいと思うんだ。……いや、信じきれないからそう思うのか。好意に見える仕草のひとつひとつが、本当のものだったらいいのにと)

 演技ではないと思う。だが、演技だと突き放したい自分もいる。まだ、俺の中で雪乃さんについて答えは出ていない。
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