クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「遊園地や水族館に行った経験は?」

 考えを振り払って橋本に尋ねてみる。

「ありますよ。それも妻からの誘いでした」
「……自分から誘ったことはあるのか?」
「一度だけ。……プロポーズしようと思ったときですね。なのにこちらがする前に、結局妻からされてしまいました。それもいい思い出ですが」
「ちょいちょいのろけなくていいぞ」
「社長以外に話す相手がいないので、つい調子に乗ってしまいますね」
「……まったく」

 羨ましいと思う自分がむなしかった。きっとこんな夫婦になる未来もあったはずなのに、それを最初の段階で振り払ったのはほかでもない自分自身だ。

(違う。その未来を奪ったのは彼女の方じゃないのか)

 もし、あんな形で結婚をしていなかったら。もう何度も考えてみたことである。
 もう一度あのバーで出会い、朝にいなくなってしまった理由を尋ね、今度はゆっくり関係を深めながら普通の付き合いをしていたら。
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