クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(俺を騙して結婚する必要なんてなかったんだ。もう一度君に会えたら、俺はきっと自分から結婚を申し出ていただろうから)

 ボタンを掛け違うように、少しずつ狂って今がある。
 デートをしたいと言われても、素直に喜べない今が。

「遊園地で……楽しかったことってあるか?」
「……のろけを聞きたいのか、そうじゃないのかどっちなんです?」
「のろけなくていいから、事実として教えてくれ」

(どういうことをすれば、雪乃さんは楽しく過ごせる?)

 常に頭の中から消えなかったそれが、はっきり形になって浮かび上がる。喜ばせる必要はないのだと否定する心もまた、一緒に。

「なにが楽しいかは人によって変わるものだと思います。……ので、デートに関することも含め、奥様ご本人に聞くのがよろしいかと」

 それができれば苦労はしない。そしてデートではない。
 その言葉をぐっと呑み込み、空になったマグカップへ目を向けた。
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