クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……いいですね、バーでカクテルを飲むって」
「そう言っていただけると、私も嬉しいですよ」
「ちょっといろいろあって……でも、どこでそういうのを発散させればいいのかわからなかったんです」
「……よろしければ、お話を聞きましょうか」

 サービスです、とカクテルのお代わりにおつまみを差し出される。きれいなガラスの器に入っているのはビターチョコレートだ。
 それをつまみながら、今まで誰にも言えなかったことをぽつぽつと話していく。

「父子家庭……って言いましたよね。父のことは大好きだし、育ててくれた感謝もあるんですが、やっぱり息苦しくて。どうして私だけみんなみたいに、カラオケでオールをしちゃいけないんだろう……とか」
「……ふむ」
「大学院も本当は興味なかったんです。でも、父が勉強が自分を裏切ることはないからって学ばせてくれて。……ふふ、昔堅気な人なんですけど、娘に勉強させたがるところはあんまり昔の人っぽくないのかな」
「いいお父様ですね」
「そうなんです。……だから、心配させたくなくて」

 ほろ苦いチョコレートが口に広がって、カクテルの味わいを複雑なものに変えていく。
 いつの間にか店内の音楽も明るいジャズから、しっとりしたものになっていた。
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