クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「大丈夫だよって安心してもらうために、三年会社勤めをしてからひとり暮らしのお願いをしました。もう、私はひとりでも頑張れるから、お父さんも好きなようにしていいんだよ……って思ったのに……」

 く、と喉奥が締まる。

「……なんでこのタイミングで、経営不振になっちゃうかなぁ」

 私の勤めている会社は、取り立てて有名でもない中小企業だった。
 海外から輸入した雑貨を国内に卸すのが主な仕事で、私はそこの営業事務をしている。けれど最近、人事や総務の社員がぽろぽろ退職し始めた。
 時間が合えばランチをともにしていた元同僚も「この会社、そろそろやばいから今のうちに逃げた方がいいよ」と言って辞めてしまった。

 人事の退職が続いたら危険信号、というのはどこで聞いた話だったか。
 ともかく、どうやらうちの会社は危機にあるらしい。

「私もなんとかしなきゃとは思うんです。転職先も探しているんですが、やっぱり不景気ですね。よさそうな場所が見つからなくて」
「そうですか……」
「せめて結婚の予定でもあれば、それこそ父を安心させられたのに。……ああ、でも結婚の目的がそれって夢がないですね……」

 恋人を作ったことのない私には、いまいち恋愛がわからない。友人たちの話とドラマの世界にだけ存在するキラキラしたなにか、である。
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