クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 夏久さんと歩けるなら、夏久さんと話せばいい。楽しい景色より、素っ気なくも確実に反応してくれる夏久さんの方がずっとよかった。

「疲れたわけじゃないですよ。お花だって感動してます」

 気遣ってくれたことが嬉しい。
 泣きたくなるほど。

「もうちょっとゆっくり歩いてもいいですか? 次はいつ来られるかわからないですし」
「……また半休を取ったときだな」

(もう一度付き合ってくれるんだ)

 驚きは胸の奥に隠し、頷いておく。

(夏久さんを嫌いになるのって、すごく難しいと思うな)

 歩調をさらに緩め、周囲の花々を見ながら唇を噛んだ。
 夏久さんは私を愛してくれない。
 でも、私が彼を嫌いになる未来だけはありえない。
 どんなに冷たくされても、突き放されても、なにがあっても夏久さんを好きでい続けてしまうのだろう。

「夏久さん」
「……ん?」
「夕飯は……おそばを食べたいです」
< 138 / 237 >

この作品をシェア

pagetop