クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「なにを考えてるんだ、君は。自分が妊婦だって忘れてるんじゃないだろうな」
「あ……そっか。ごめんなさい」
「本当に忘れてたのか……」
「全然つわりがないせいかもしれません。まだ母親の実感がなくて……」
「それじゃ困る。……だから、平気な顔で台所に立ったり、ふらふら外を歩き回ったりしてたんだな?」
「ふらふらなんてしてません。散歩です」
「俺からすれば同じだ」

 やれやれと夏久さんが頭を振る。
 そして、私の手を握った。

「勝手に動き回るな。乗り物も最低限にしろ」
「せっかく来たのに……」
「遊びに来たわけじゃない」
「遊園地に来てそんなことを言うのは夏久さんだけだと思います」
「……っ」

 その通りだと思ってしまったのだろう。夏久さんがふいっと目をそらす。

「改めて言っておく。……デートじゃないからな」
「私はデートだと思うからいいんです」
「頑固者」
「夏久さんだって」

 むっとして言い返すと目が合った。
 見つめ合ったのは一秒にも満たなかっただろうに、胸がきゅんと疼く。
 そうしてから手を握られていることに気付いて、意識してしまった。
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