クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(優しさに付け込むなんてずるいことをしていると思う)

 ちくりと痛んだ胸をそっと押さえる。

(でも、最初で最後にするから。……好きになってほしいって思うのも、今日で終わりにする)

 願いはしても、望みがないのを察していた。
 だから気持ちにふたをして、これからは“子供の母親”であろうと思う。

「それでは次のお客様、どうぞ!」

 スタッフに明るく迎えられ、青いコーヒーカップへ案内される。
 ハンドルを挟んで夏久さんと向かい合った。

(デートみたいだなぁ)

 経験したことはないけれど、そんなふうに思う。
 やっぱり嬉しくて、つい頬が緩んでしまった。
 夏久さんが軽く目を見開いて、すぐ眉を寄せる。

「楽しそうだな」
「はい」

 その気持ちに嘘はなかったから、そのまま答えた。

「相手が俺でも楽しいなんて、君は変わってる」
「夏久さんだから楽しいんです。父と来ても……あんまり楽しめないと思いますから」
「友達は?」

 話している最中にアトラクションが動き出す。
 ハンドルに触れていない分、想像以上にのんびりした動きになった。
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