クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「友達とはどうでしょう……? 来たことがないので」
「……え?」
「門限を超えちゃいますから」
「……ああ、そういうことか」

 納得してくれたことにどきりとする。
 昔から門限が厳しかったという話を、覚えていてくれたことにほかならない。

「夏久さんはお友達と来たりするんですか?」
「三十を超えた男が、友達同士で来るのはちょっとどうなんだ」
「別におかしくないと思いますけど……」
「……君の見てきた世界に、おかしなものなんてなかったんだろうな」

 ふ、と夏久さんが苦笑いした。
 寂しそうで、それでいて優しくて、思いがけない一瞬に目を奪われる。

「知り合いはいるが、友達はいないんだ」

 軽快な音楽が過ぎ去っていく。
 夏久さんの声だけが私の鼓膜を震わせていた。

「学生時代の繋がりとかは……?」
「だから、知り合いならいる」
「友達とどう違うんですか?」
「さあ、俺にもわからない」
「なんですか、それ」
「俺にはそこの境目がよくわからないからな」

 なんだか難しいことを言われて首をひねる。

「久し振りに会っても、昨日別れたときのように話せるのが友達……って聞いたことがあります」
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